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「私がつまらない嘘を吐く必要はありませんよ。取り敢えず食事中は、彼女の事はアルティナとして接して下さい」
「なんだかなぁ……」
首を捻った赤騎士隊隊長のエルマーを筆頭に、男達はまだ若干納得しかねる顔付きだったが、そのまま全員、おとなしく来客用の食堂に移動した。
それからケインによって互いの紹介がなされ、アルティナが初対面のふりを装って挨拶してからは、何事も無く食事が開始された。
シャトナー家の面々はいつもの食堂で別に食事をしており、近衛騎士団の隊長達の中にアルティナが混ざっている状態では、当初は色々ぎこちなかったが、アルティンが隊長だった時の話が出た途端大いに盛り上がり、あっという間に食べ終えた。
「アルティナ、今日のお茶はどうだろうか」
「ええ、この前と同じ様に、珍しいお茶なのね。随分、香りが独特。でもこの前程きつくはないし、美味しいわ」
「そうか。それは良かった」
(全く、もう少し面倒くさくない設定にできなかったのかしら。こうなると自分の浅はかさ加減が恨めしいわ)
心底うんざりしながらお茶を飲み終え、チラチラと自分の様子を窺いながら世間話をしているケインや他の面々の視線を感じつつ、アルティナはできるだけ自然に見える様に瞼を閉じて、椅子の背もたれに寄り掛かった。そして少ししてから、ケインが耳元で囁いてくる。
「アルティナ? 眠ったか?」
それを合図に、アルティナはゆっくりと目を開け、半ば本気で呆れながら苦言を呈した。
「……何を間抜けな事を言っている。団長達が呆れているぞ」
「しかしこういう場合、何と言ったら良いんだ?」
そのケインの困惑には答えず、彼女はテーブルを囲んでいる面々を見回し、アルティンの口調で挨拶した。
「団長、皆様、お久しぶりです。この度はわざわざこちらの屋敷に出向いて頂き、ありがとうございます。ケインから私と王太子妃殿下周辺に関する話は、お聞きの事かとは思いますが」
それにバイゼルが、溜め息を吐いてから応じる。
「ああ……。妃殿下に関する話はともかくとしてお前に関する内容は、正直ナスリーンの口添えがあっても、今まで半信半疑だったがな」
「非常識にも程がある存在になってしまい、誠に申し訳ありません。加えて至急、かつ内密な話をしたかったもので」
「その話は、近衛騎士団の執務棟でも不可能と言う事か? 穏やかでは無いな」
「それは後程、ご説明致します」
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