第28章 策士の面目躍如

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「いいえ。推測を裏付ける様な話は、全く聞いていません。彼女の家族構成は、郷里のパーデリ公爵領に母と弟のみが居るだけで、父親は既に死亡しています。ですが入隊時の身上調査では、彼女の母親はその夫と結婚する前に、彼女を儲けています」 「でも、それだけでは何とも言えませんよね?」 「それと、ごく偶に出席する夜会などでパーデリ侯爵にお会いした時に、ちょっとした癖をお持ちなのを拝見しまして」  それにアルティナは、怪訝な顔で尋ねた。 「どんな癖があると?」 「困った時とか言葉に詰まった時とか、無意識に軽く両手を組んで、右手の親指で左手の中指辺りを擦っていらっしゃるのですが、同様の事を彼女も。根拠としてはこれだけなのですが」 「あなたがそれだけで、ここまで断言するとも思えません。他にも何かありますよね?」 「一応、個人のプライバシーに関わる事ですので」 「……そうですか」  そこで無言で微笑み、アルティナの追究を終わらせた彼女に向かって、チャールズが難しい顔で確認を入れた。 「それで、先程一番白騎士隊が注意しなければいけない理由とは、副隊長にパーデリ公爵の息がかかっているかもしれない人間が、就任しているという事ですか?」 「確かにそれもありますが、上級女官に息のかかった人間を押し込む事に失敗したのなら、次にうちを狙うのではないかと推察します。白騎士隊は女性のみで構成される、女性王族、つまり王妃陛下と王太子妃殿下と王女殿下の護衛に特化した隊ですが、武芸を嗜む女性は限られていますから今現在の所属人数は六十五名のみで、慢性的に人手不足です」 「…………」  冷静に指摘したナスリーンに、全員が険しい表情になって黙り込んだ。しかしすぐにバイゼルが尋ねる。 「確かにそうだな……。それで?」  それに彼女は、微笑みながら答えた。 「それはこちらで何とかしますので、お気になさらず。仮にも陛下から、隊長職をお預かりしている身です。部下に対して余計な手出しはさせませんし、不心得者は私が責任を持って対処致します」 「それはともかく、身辺には十分注意する様に。何かあったらニールの奴に、今度こそ絞め殺される」  長年の友人でもある、気難しい宰相閣下の顔を思い浮かべたのか、バイゼルは無意識に顔を顰めた。それを見たナスリーンが、笑いを堪える表情になる。
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