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そんな彼らを玄関で見送り、ケインと一緒に屋敷内に戻ってから、アルティナが並んで歩く彼を軽く見上げながら、何気ない口調で問いかける。
「なあ、最後のあれ。わざとだろう?」
「うん? ああ……、まあ、あまり深刻な顔で考え込んでいても、仕方が無いからな」
苦笑いで返したケインだったが、すぐに真顔に戻って廊下を歩きながら、独り言を呟き始めた。
「しかし、黒騎士隊では該当者は三十八人か……。名前が挙がった各家の規模に比べたら、五百人のうちそれだけなら少ないとは思うが……。その気になったら、十分徒党が組める数だしな……」
上司の手元を覗き込んでしっかり該当者の名前を把握し、早速対応策を考え込んでいるらしい彼を見て、アルティナは小さく溜め息を吐いた。
(ケインが一番、深刻な顔で考え込んでいると思うんだけど?)
そこで自らも色々考えてしまったアルティナは、廊下を歩きながら口を開いた。
「あのな、ケイン」
「何だ?」
「何だか色々、巻き込んですまない」
唐突な謝罪の言葉に、ケインは困惑した様に足を止めた。
「お前が謝る筋合いでは無いだろう? ろくでもない事を企む馬鹿共が悪いし、それを近衛騎士団が阻むのは当然の事だ」
「まあ、それはそうなんだが……」
自然に足を止めて向き合ったアルティナを、ケインは指さしながら、強い口調で厳命してきた。
「それはともかく、間違ってもアルティナに危ない事はさせるなよ? その体に傷を一つでも付けたら許さん」
「ああ~、……うん、そうだな。善処する」
反射的にケインから目を逸らしながら、(いや、どう考えても荒事に巻き込まれない可能性って、ゼロに等しいと思うし)と内心で諦めていると、そんなアルティナの肩を両手で鷲掴みにしながら、ケインが低い声で凄んできた。
「……おい、アルティン。きちんと誓えないなら上級女官就任はお断りして、即刻監禁するぞ?」
「ケイン、そんな冗談は」
「ほう? 俺が冗談を言っている様に見えるのか? それはそれは、真剣さが足りないらしいな」
真正面から自分を見下ろしつつ、据わった目で囁いてきたケインを見上げ、それなりの期間友人として付き合ってきたアルティナは、本気で戦慄した。
(うわ……。こういう時のケインって、完全に本気よね。絶対に就任話を反故にして、監禁コース一直線……)
それを悟った彼女の口から、反射的に誓いの言葉が滑り出た。
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