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「疲れて、足がもつれてきたか? 怪我をしては拙いし、ちょっと休憩しよう」
「……はい」
そして二人で壁際まで移動し、ケインが引き寄せた椅子に座ったアルティナは、笑顔を保ちながらも内心では屈辱に震えていた。
(なんて事なの? ダンスのステップ如きで躓くなんて。あり得ないでしょうが!?)
アルティナは自分の不甲斐なさに苛つきながらも、隣に座ったケインと笑顔で会話を始めた。それを少し離れた所からユーリアが眺めていると、いつの間にか入室していたクリフが、すぐ隣に立って囁いてくる。
「意外に苦戦しているみたいだね。母さんやマリエルから、アルティナ殿の各種マナーや知識は問題が無いと聞いていたから、夫婦揃っての舞踏会出席には、何の問題も無いと思っていたんだが……」
その感想に、ユーリアは淡々と言葉を返した。
「貴族の子女に必要な知識に関しては、アルティン様が機を見て必要な資料や文献を領地の屋敷に送っていましたし、マナーなども実際に訪問した時に、きちんと教えてチェックしておられましたから」
「なるほど」
「勿論、アルティナ様が日々自主学習に励んでおられたのが、それらがきちんと身に付いていた、最大の理由だと思いますが」
ユーリアがそう話を締めくくると、クリフは微笑んで頷いた。
「その通りだな。やはり君は、物事の本質を良く理解している。アルティン殿が信頼して、他の侍女を使っていなかった理由が分かるよ」
「ありがとうございます」
素直に納得して貰ったのが分かり、彼女は内心で安堵した。
(取り敢えずアルティナ様が、どこに出してもおかしくない程度の知識と教養を物にしている理由はごまかせたわよね。だけど本当に、ダンスに関しては誤算だったわ。あと十日足らずで、本当にあれがどうにかなるのかしら?)
本気で不安になりながら考え込んでいると、クリフが話題を変えてくる。
「さっき母から聞いたんだが、兄さんとアルティナ殿が、当面教会で挙式はしないと決めたと言うのは、本当なのか?」
「はい。現時点ではアルティナ様に関わる悪い噂が社交界に広がっていますし、興味本位で有象無象が集まってくる可能性があります。実家のグリーバス公爵家からの参列も望めませんし、余計に好奇の視線に晒される事になるからと、ケイン様が仰られて」
難しい顔になりながら説明したユーリアに、クリフも僅かに顔を顰めながら同意した。
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