第1章 思わぬ落とし穴

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「確かにな。ちゃんと教会に婚姻申請書は提出済みで、双方の家に婚姻認定書も届いているんだから、わざわざ騒ぎを起こす事も無いか。貴族階級でも挙式しない、訳ありカップルは偶に存在しているし」 「ケイン様は落ち着いたら、改めてきちんとしたいと言うお心積もりの様ですが」 「いつになる事やら、現時点では見当も付かないな」  そこで思わず互いの顔を見合わせ、笑ってしまった二人だったが、クリフはすぐに真顔になって話を続けた。 「ところでユーリアは、最初アルティン殿に付いてから何年にもなると聞いたが。差し支えなければ、今何歳か教えて貰えるか?」 「……二十一ですが。それが何か?」  微妙に顔つきを険しくしながら答えたユーリアに、若干気圧されながら、クリフは話を続けた。 「その……、君にそろそろ結婚の話とか……」 「ありません」 「それでも恋人とか、婚約者とか……」 「生憎と、そういう方は居ませんし、居たこともありません」 「本当に?」 「私がクリフ様に、嘘を吐かなければいけない理由などありませんが?」  疑わし気に尋ねてきたクリフに、ユーリアは冷たい視線を向けながら言い返す。その反応を見た彼は、慌てて弁解してきた。 「あ、いや、悪い。疑っている訳ではないんだ。ただユーリア位見目が良くて気立てが良いと、あちこちから引く手数多だろうと思って。結婚すればこれまで通り、アルティナ殿に付いていて貰えなくなるかもしれないと思ったものだから、その場合、彼女付きの侍女をどうしようかと思っただけなんだ」 「安心して下さい。これまではアルティン様のお世話で忙しかったですし、当面はアルティナ様が心配で、自分の事は考える余裕なんかありませんから」  そんな変な気を回した結果かと、ユーリアが呆れながらも失礼のない程度に言い返すと、相手が急に真剣な口調になって問いかけてきた。 「それはやはり、アルティン殿が亡くなる時に頼まれたからか? それに未だにアルティナ殿の中に、アルティン殿が留まっているから?」 「はい?」  急に口調が変わった事と、話がずれた様に感じたユーリアが反射的にクリフに顔を向けると、彼が口調以上に真剣な表情で自分を凝視していたのが分かって、怪訝に思いながら肯定の答えを返した。 「はあ……、まあ、そうだと言えば、そうなんじゃないでしょうか」 「そうか。分かった」
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