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それきり黙って再び兄夫婦の方に視線を向けた彼を見て、ユーリアは密かに首を捻った。
(どうしていきなり人の年を聞くのよ、この人。この年で恋人も婚約者もいなくて悪かったわね! アルティナ様の様な波瀾万丈な主に仕えながら、色恋沙汰にのめり込めるならやってみたいわよ!)
半ば八つ当たりしながら、もう十分休憩はできただろうと判断したユーリアは、アルティナ達に声をかけた。
「アルティナ様、ケイン様。そろそろ練習を再開しますか?」
「ああ、頼む」
「お願い、ユーリア」
その声に二人は立ち上がり、揃って部屋の中央に向かう。
「それではいきますよ? はい、1、2、3、1、2……」
そうして再び何事も無かったかのように、ユーリアの手拍子に合わせて二人はゆっくりと踊り出し、それをクリフが無言で見守った。
それから何とかアルティナが基本的なステップを間違えなくなったのを契機に、ケインが足を止めて提案した。
「それじゃあ、今夜はここまでにしようか」
「ええ、ケイン。練習に付き合ってくれてありがとう」
「どういたしまして。筋は良いから、すぐに覚えられるさ」
笑顔で答えるケインを軽く見上げたアルティナは、内心で考え込んだ。
(本当にケインは貴族にしては人当たりは良いし、剣の腕は立つし、部下からの人望は熱いし、年長者からの信頼も勝ち取ってるのよね。女癖の悪さで、残念度が増してるんだけど。私と結婚したからって、そうそう女遊びを止める筈も無いけど、毎晩練習に付き合って、いつ出かける気かしら?)
ケインが聞いたら倒れ伏して泣き出しそうな内容を、アルティナが真剣に考えていると、少し前から手拍子をクリフに任せて外に出ていたユーリアが、ワゴンを押して戻って来た。
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