第9章 アルティナの憂い

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「正直に言うと、今まで体験した事がない人込みで疲れてしまったし、少し隅で休んでいたいの。目立たない様にしていれば、大丈夫ではないかしら?」  必要以上に連れ回して、アルティナに好奇の視線を浴びさせたくは無かったケインは、大広間の隅にひっそりと設置されている幾つかの休憩用のテーブルに目を向けた。そして殆どの貴族が精力的に動き回っている為、そこの人影が少ない事を確認して、納得した様に頷く。 「そうだな……。じゃあ、あそこのテーブルが空いている様だし、そこに座って給仕から飲み物でも貰って休んでいてくれ。団長を探したら、すぐに戻るから」 「ええ。そうします」  そうして笑顔でケインと別れたアルティナは、真っ直ぐにテーブルへと向かい、空いている席に腰を下ろした。そしてすぐに心得て近付いてきた給仕から、飲み物のグラスを貰って一息入れる。  案の定、早々に会場の隅に引っ込んで休んでいる様な人間に、口さがない人物は皆無らしく、アルティナが来ても周囲は静まり返っていた。それに彼女は安堵しながら、落ち着いて考えを巡らせる。 (色々と物珍しい視線は受けたけど、今のところアルティナとアルティンが同一人物かもしれないと、疑っている人は皆無よね。正式な死亡届けが出されているから、当然と言えば当然だけど。だけど本当に、貴族って暇を持て余している人間が多い事。噂話に興じる以外に、する事は無いのかしら? それに絶対、絡んでくると思ったんだけど)  そんな事を考えながら、アルティナがぼんやりと会場を眺めていると、いきなり彼女の視界を遮る様に複数の女性が現れ、わざとらしく声をかけてきた。
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