カウンセラーの白衣

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 天気は雨だ。  急に振って来た雨で日比谷公園をサラリーマンは小走りで通り過ぎる。  ただ、目にとまる。  一人、ベンチに座る男がいたのだ。傘をささずに。 「晴先生! 晴先生! なにしてるんですか!」  僕を呼ぶ声がする。振り向くのも面倒なので、身体に当たる雨粒に神経を寄せる。  だけど、突然その感触はなくなる。傘をさされたようだ。 「もう、またびしょ濡れじゃないですか。バカなんですか?」  怒っているのは僕が経営しているクリニックの受付嬢、東海林美純(しょうじ みすみ)だ。彼女とは幼馴染の腐れ縁で、リスのようなフォルムのくせして、性格は言葉の通りだ。だから大学生になっても彼氏はいない。当然だろう。 「そんな恨むような目をしないでください。風邪をひかれてはクライアントさんにも失礼でしょう。もっと、意識してくださいよ」 「雨に打たれると、いろいろ忘れられるんだよ」 「失恋でもしたんですか?」 「いいや。うるさい受付嬢だな」 「・・・辞めますよ?」雨粒以上に冷たい言葉だ。 「ごめんなさい!」  即座に謝罪をすると、彼女は微笑む。  カウンセリングルームに戻る。次のクライアントまで10分しかない。急いで洗面所で髪を乾かし、白衣を一応着る。カウンセラーは医者ではないけども、着る。相手が安心するからだ。第一印象は大事 だ。 
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