カウンセラーの白衣

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「実は・・・」  浩之さんは声のトーンを一段階下げ、切り出した。 「妻が分からないんです」 「私も主人のことが分からないんです」  二人は神妙な顔で尋ねる。 「お二人はお互いをもっと知りたいのですね」  言葉を変えた。 「はい、そうです!」  曇り模様が減る。息がぴったりだ。 「具体的にどんな出来事があって、そう感じるのですか?」 「私から良いですか?」手を上げたのは浩之さんだ。  なんでも仕事が休みの日にリビングで趣味のゴルフの練習をしていたそうだ。すると、掃除をしていた奥さんから、「あなた、少しは上手くなった?」と話しを振られ、「ああ、だいぶスコアは減ったよ。お前もどうだ、今度打ちっぱなし行くか」と答えたそうだ。 「私もやりたいのはやまやまなのよね。良い運動だし」 「なら、今からやりにいくか? 神宮にあるからさ」 「でも、今は忙しいから」 「そうか、じゃあ暇になったら誘うよ」  再びパターの練習をする。 「え、それだけ?」 「それだけって?」  この後、大喧嘩をしたそうだ。すぐに仲直りしたけども、これの似たようなことが何度もあったそうだ。このままでは関係に溝が入り、離婚になるかもしれないと話し合い、雑誌で見かけた僕のクリニックへやってきたという訳だ。 「なるほど、何を考えているのか分からないのですね、お互いに」 「まさにそうです!」  二人は同時に手を叩く。これでも互いに息が合わないと思うのは不思議だ。 「妻の言葉に答えても、なぜか感情を込めて言ってくるんですよ。何もおかしなことを言ってないのにですよ」 「夫に伝わらないんですよね。伝わったかなと思ったら、違ったり、怒られたりするんです」見つめ合い、息を漏らす。 「小豆先生、これは相性の問題なんですか?」 「相性は大変すばらしいと思いますよ」 「なら、なぜこんなにケンカをしてしまうのでしょうか。教えて下さい」 「そうですね。心理学で言えば、ダブルバインドが起きていると思います。簡単に言えば、ボタンの掛け違いですね」  真弓さんはふふふと笑い、浩之さんは「はぁ」とピンと来ていないようで、ちょっとしたゲームをすることにした。こういう夫婦の相談は土日に多く、月に三度はある。
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