カウンセラーの白衣

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 やり方は簡単だ。ケンカをした状況を再現してもらい、筆談してもらうだけだ。相手の真意を捉えた方が勝ち、言葉を出してしまった方が負けだ。  今回は話してくれたゴルフの練習をしていた時を再現してもらった。  ソファーから立って、その日を演じる。最初は恥じらいがあったものの、ハンディタイプの100円ボードに言葉を書いて相手に伝えていくと、感情が蘇る。言葉も乱暴になる。僕は言葉をメモしていく。 「だから――‐」つい浩之さんが言葉を出したので、僕はテーブルに置いたラッパを鳴らす。 パフパフ♪  このおもちゃは人を笑顔にするすばらしい一品だ。ちなみに100円だ。 「浩之さんの負けですね。では座って頂いて、言葉を振り返ってみましょう」  しばし、眺める。両手で頬杖をついていた真弓さんが何かに気付いた。 「やっぱり、伝わってないんですね」  寂しい感情はなく、原因がわかったようで、何度も頷く。 「分かったのか、一体どういうことなんだ?」浩之さんは聞くけども、「内緒」といたずらっぽく指を口に当てる。  眉間に皺を寄せて、紙に顔を近づける。  真弓さんは僕に尋ねた。 「男と女は違うものなんですね。いくら結婚した相手でも、そうなんですね」 「そうですね。同じようなお悩みを抱えたご夫婦はけっこういらっしゃいますよ」 「そうなんですね・・・」納得し、「ボタンの掛け違い、だからか。先生はすごいですね」褒められたけれども、どこか表情から違和感を抱く。気のせいかな。
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