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だから私は余計に会いたくなった。
自分の願望を叶えたい私と、彼の意見を尊重したい私の、相反するワガママな私たちの重圧に耐えかねて、彼と会うまでの4年間と、会ってからの日々を想像で補おうとしたのが『瞳を閉じて(仮) 』を書き始めたキッカケだった。
待つだけの4年間は切なすぎる。
けれど、彼に会う事だけを考えすぎて生活を乱すなんてカッコ悪いことはしたくない。
他にも叶えたい夢、取りたい資格、行ってみたい場所。きっとあるはずだ。
彼とのプラトニックな恋愛関係を続けながら、私は私でキチンと毎日の生活を楽しむんだ。
そう誓いを立てる意味でも書いた。
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” おはよう” から始まる私たちの朝。
「おはよう、悠人。こっちは雨だよ」
「おはよう春香。風邪ひかないようにね」
「うん、行ってきます。悠人も気をつけて」
次に連絡が来るのは昼休憩か、仕事が終わってから。
電話は22時以降。
ほとんど変わらないルーティーン。
今日の出来事を話したり話さなかったり。言葉が途切れても、繋がっているだけで良かった。小さな吐息が受話器越しに聴こえる。彼の後ろを通ったらしい車の音。虫の鳴き声。風の音。
私は全神経を集中させて、電話をしていた。彼と同じ景色を見たくて。
「ねぇ悠人。今、犬が吠えたでしょう?」
「よくわかったね。聴こえた?」
「うん、少し高めの鳴き声」
「そうそう!」
その犬は、悠人の夜の散歩コースにある家で飼われている犬だと教えてくれた。小型犬だから声が高いんだろうとも。
月明かりの下を散歩する悠人。そばに小型犬がいて、きっと左手で携帯を握ってる。もしかしたら胸ポケットに入れているのかもしれない。田舎なのだろうか、街中なのだろうか。
私の想像は膨らむ。
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