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瞳を閉じたら、そこには必ず悠人が居る。
顔は知らないけれど、いつも笑顔だ。
電話は、なかなか切れなくて、
「そろそろ寝る時間だよ」
「うん」
「じゃあ、おやすみ。また明日ね」
「おやすみ」
「…………」
「…………」
「ねぇ、悠人きってよ」
「えぇ?春香きってよ」
「……じゃあ、今日は私が切る。明日は悠人が切ってね。おやすみ」
「おやすみ、春香」
そう言ったわりに、なかなか切れなくて
「ぷっ」
と笑い声を上げた悠人に反応して、私はまた受話器を耳に当ててしまった。
「もぉう。電話切れないよ」
「切れないね」
まるで中学生のような恋愛。
「ダメダメ、もう寝なきゃ。おやすみ春香」
「うん、おやすみ。今度こそ、ちゃんと切るから!おやすみ、切るよ?切るよ?」
携帯画面の通話終了ボタンを押す。
プツッ……ツーツー。
この音は、何かを失ったように感じさせて嫌だなぁ。
寂しくなって、携帯を布団に放り投げる。
ふぅ……とため息をつくと、机に向かって5mm方眼用紙とシャープペンを取り出した。昨日書いた続きを書く。物語は現実の世界よりも1ヶ月ほど先まで進んでいた。今日書く内容で、どれほど先まで書けるかはわからないけれど、明るい未来を書くのは楽しい。
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こうやって私は毎日、悠人とのプラトニックな恋愛を実際に楽しみながら、4年後までの未来の生活や、それ以降の想像を物語にしていた。
今日はまだ、悠人から連絡が来ない。
そういえば今朝のメールで、遅くなるって書いてあったな。
悠人、忘れてないかな。4年は、もうとっくに過ぎたよ。けれど、準備ができたら知らせてくれると約束していた。だから4年がとっくに過ぎようと私は待っている。
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