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突然、ざあっと木々の合間をぬって吹き抜けた強い風に、思わずカワセミは目を瞑った。
すると次の瞬間、不思議なことが起こった。
さっきまで目の前にいたはずのサンショウウオの姿はどこにもなく、そこには夕焼けのオレンジを受け鈍く光る黒い大きな石が2つ、寄り添うようにそこにあるだけだった。
その回りに散りばめられているのは、たくさんのネムノキの花。
「……また来ますね」
にっと笑ってみせると、カワセミは空高く飛び上がった。
―いつか僕にも大切な誰かが出来たなら、あの場所へ連れていこう。淡いピンクの花の揺れるあの丘へ。
そうしたら見せに行くんだ。おじさん達に、あの花と僕の大切な宝物を。
―だから、どうか気長に待っていてくださいね。僕が堂々と、胸を張って見せにくることが出来るその日まで。
夕陽を背に受けて、全身夕焼け色に染まるカワセミを包み込むように、ふわりと柔らかな風が吹いた。
その風はどこか、甘い桃の香りがした。
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