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ある夏の暑い日の明け方。
木々の隙間からこぼれる木漏れ日を背に受けてきらきらと輝く青が、ひゅんと勢いよく水面目掛けて突っ込んだ。
じゃぷん。
飛沫をあげ水中から飛び出したその嘴には、ぴちぴちともがく小さな魚。
カワセミは満足げにごくんとそれを丸飲みにした。
どうやら今日はついているらしい。せっかくだから山奥の方へも行ってみるかと、まだ水滴の残る羽を羽ばたかせた。
"捻木(ねじき)の森"と呼ばれたそこは、うっそうと木々が茂り人間はおろかカワセミや森の動物達でさえ滅多に足を運ぶことはない。あの熊ですら、捻れてそこら中に蔓延った枝に苦戦し泣く泣くあきらめたほどだ。
そのせいもあって、外敵もいない魚達は立派に育ち、丸々と太った魚がたくさんいるらしいと有名なのだ。
カワセミは絡み付くように枝を伸ばした2本の木の間をかいくぐり、川のせせらぎを頼りに上流の方へと向かっていく。
「はぁ…はぁ……上流はまだあんなに遠い」
なんとか途中まで来たはいいものの、小さなカワセミにとってその距離はそう容易いものではない。
ひとまず休もうと近くの小さな滝の側へ行った時だった。
ふと、岩蔭の辺りを何かが横切った。
はっとしてもう一度目を凝らすと、今度は黒い大きな影が確かに見えた。
「もしかしたら、ここの主かもしれない!」
一体どんな大きな魚なのだろうかと、空中でぱたぱたと羽を動かしながら様子を伺っていたがどうやら魚ではなさそうだ。しかもかなり大きい。小さなカワセミでは、襲われたらひとたまりもないだろう。
逃げようとした瞬間、ぬっと"それ"は姿を現した。
「ごっ、ごめんなさい!…その、貴方に危害を与えるつもりはなくて、その、いっ命だけは…っ」
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