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なるほど確かに形こそサンショウウオとよく似ているが、やはり本物と比べてしまうと似ても似つかない。
「お、おじさん……」
石の前には皿に乗せられた魚、そして石を囲むように色とりどりの花が飾られている。
「妻は昔から花が好きでね、ネムノキの花が一番好きだったんだ」
あぁ、そういえばとカワセミは記憶を辿った。
『綺麗でしょう、ネムノキの花よ。おばさんね、このお花がとっても好きなの』
淡いピンクの花を差し出して微笑む記憶の中の彼女の優しい笑顔に、ずきんと胸が痛んだ。
「この捻木の森もずいぶん木がすごくなってきたろう?それに私もすっかり年をとってしまったから……もう取ってきてはやれないんだけれど」
「じゃあ僕がとってきてあげる!」
寂しそうにふっと笑ったサンショウウオを見ていられなくて、半ば叫ぶようにカワセミは言った。
「僕、ネムノキのある場所知ってるんです!だからちょっと待ってて!」
「坊や、危ないから」
少しだけ恐い顔をした彼の低い声を、カワセミの甲高い声が遮る。
「大丈夫!僕、体は小さいけど一人立ちしたれっきとした大人なんです!……それに、それにおいしい魚をごちそうしてくれるんでしょう?そのお礼です」
「…っ、しかし何があるか分からないんだ!君を危険な目に合わせる訳には…」
「すぐに戻るから心配しないで。……ネムノキの花をいっぱい飾って、僕とおじさんと、それからおばさんとで食べましょう。皆で食べた方がきっとおいしいし、きっと……おばさんも喜んでくれると思うから」
サンショウウオはもう何も言わなかった。
けれどもその瞳にうっすらと水の膜がはっていたことに、カワセミは気付いていた。
「じゃあ行ってきます。……すぐそこの山の淵辺りの丘ですから、安心してください」
「気を付けるんだよ、危ないと思ったらすぐに戻っておいで。無理することはないんだから」
カワセミは一度彼の方を振り返り頷くと、勢いよく飛び立った。
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