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最後に交わした会話がよみがえる。
「どうしよう、瞬。緊張してきた」
話す声が震えてるのが自分でもわかった。
「紗代でも緊張するんだ」
スピーカー越しにいたずらっぽい声が返ってきた。
「ちょっと、可愛い幼なじみが助けを求めてるのに、ひどい」
少しむくれると、
「ほら、そうやって返せる余裕があるから大丈夫だ」
と力を込めて言う。わざとからかって、リラックスさせようとしてくれているのを感じた。他の人に出来るさ大丈夫だよなんて励まされると、よけいに緊張する私の質を、ちょっと悔しいくらい彼はよくわかってた。
「ありがとう」
ぼそっとつぶやいた。はは、と笑い声が聞こえる。
「急に素直になって、可愛いやつ」
いきなり可愛いなんて言われてドキリとする。
「か、可愛くなんかないもんっ!」
苦し紛れに言い返しても
「さっき自分で可愛いって言ってたじゃん」
と切り返される。瞬にはかなわない。もう話題を変えてしまおうと、話しをふった。
「それよりさ、明日会えない? 受賞のお祝いして欲しいな、なんて」
「もちろん、いいよ」
いつもそう。いきなりでも唐突でも私のわがまま聞いてくれて。
「それでね、言いたいことがあるの」
伝えよう、この気持ち。ずっと前から言えずにいたけど、もう、素直になって言わなきゃ。
「何なに、今じゃダメなのか?」
「今はまだ」
明日までに心の準備するから……。
「まあいいや、おれも言いたいことあるし。明日楽しみにしてるからな」
そこまで話して電話を切った。
あの日事故に遭わなければ、次の日じゃなくてあの日に会っていたら、彼はこんなことにはならなかったかもしれないのに。
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