3 紫のアネモネ

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 頭を強く打っただけで済んだのが不幸中の幸いで、一命をとりとめたのは奇跡だと医者は言っていた。このままいつ意識が目覚めるかはわからないと言う担当医の言葉が痛かった。  あれから3年後…。まだ瞬は目覚めない。  病院に運ばれてから、毎日見舞いに行った。目覚めたとき一番に会いたかった。 「今日は新しいお花持ってきたよ」  また答えは返ってこない。 「アネモネだよ。紫の。きれいでしょ?」  たとえ答えが返ってこなくても届いていると信じて話しかけた。  花瓶に差して飾り終わると、いつものように傍らに座った。瞬の手を握りしめる。  昨日と変わらない寝姿。このまま目覚めない日々がどれほど続くのだろう。いつまで私は瞬と笑いあえない時間に耐えられるのかな。  いやなことが会った日も彼に話せば元気をもらえたのに、いまは瞬がいない苦しさばかり強くなってく。 「いつまで寝てるんだよバカ」  やるせない気持ちが胸を締めつけた。  一瞬、ぴくり、と握っていた彼の手が動いた。 「瞬?」  身を乗り出して見つめた。うっすらとまぶたが開いた。 「バカとはなんだよ、紗代」  発した声は小さかったが、言葉は昔と変わらなかった。無意識に抱き着いていた。 「瞬の寝坊助」  泣きじゃくりながら言ってやった。 「心配かけてごめん」  首をよこに振った。堰を切ったように涙が止まらなかった。流れる涙を瞬の指がそっとぬぐっていく。
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