第1章

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六時になるまでそれぞれの時間を堪能したメンバーは、危うく音楽室の調査を忘れるところだった。 「やっぱり科学部は居心地がいいな」  教室で肩身の狭い思いをしてる芳樹はしみじみと言う。彼はカエルをどこにでも携えているため、嫌がられる回数も多いのだ。 「そのために我らは協力しているんだろうが」  ここでも肩身の狭い亜塔は文句も言わずに頷く。亜塔も一歩外に出れば変人として見向きもされないのだ。ここで友達や後輩と囲まれているのは楽しい。 「そうですよ。だから音楽室の肖像画の調査です」  ブラックホールの温度を求める式を眺めていた桜太が立ち上がった。引退すれば自分たちの行き場もなくなるという実感が湧いたのだ。後輩がいれば亜塔たちのように何かと理由を付けて化学教室に潜り込める。 「なあ、メジャーは要るよな?」  楓翔が鞄から自前のメジャーを取り出して訊く。 「要るけど、そんな本格的なものである必要があるか?」  振り向いて確認した桜太は呆れてしまった。楓翔が手にしているメジャーは明らかに測量用で、結構な大きさがある。それを普段から持ち歩いている時点で驚きだ。 「教室が何十メートルもあるわけないでしょ。これで十分よ」  容赦なく突っ込んで、千晴が3.5メートル測れるメジャーを楓翔に渡した。楓翔は不満そうに渡されたメジャーを伸ばしたり戻したりする。 「計算には黒板を使えばいいか。しかし、やった計算を記録しておくことも重要だろうか」  その楓翔の横では莉音がノートを持っていくかで悩んでいる。彼にとってはそれが研究ノートなのだろう。様々な数式が所狭しと書き込まれている。 「実際に測れるわけですし、数値だけどこかに記録できればいいかと」  仕方なく迅が対応した。数式に対する思い入れの強さは理解できるからだ。
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