第1章

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「要するに今から三角形の頂点を求めにいくんだろ?」  ついに優我が身も蓋もないことを言い出した。しかも準備する気もなくまだシュレーディンガーの猫について書かれた本を読んでいる。量子力学においてシュレーディンガーの猫はメジャーな話題なのだ。けっしてシュレーディンガーの飼い猫の話ではない。 「そうだよな。線が集中する場所なわけだし、三角形になるよな」  それに乗っかるのは亜塔だ。科学部の危機を救出に来たはずなのに、いつも論点をずらしていってくれる。すでに黒板に正三角形を描いていた。 「両端の目を各点とするわけです。そうすれば残りの頂点はすぐに解ります」  そこに迅まで加わり始める。先ほどの莉音へのアドバイスといい、彼も計算する気満々だ。どうにもこのメンバーは理論型のようだ。すぐに実測とはいかないらしい。迅のやる気が10秒しか持たなかったことでもよく解る。 「そうだよな。端と端が合えば、間なんてどうでもいいよな。絵が点在しているわけないし」  ついに生贄、ではなくまとめ役の芳樹まで加わってしまう。その手にはちゃっかりカエルの入った水槽が握られていた。 「おおい。例題からその態度は止めろ」  黒板に集まる面々に、桜太は悲しい気分になりながら注意した。桜太だって三角形を描き出せればいいことに気づいている。しかしそれでは例題として使う意味すらなくなるのだ。せめて実際に行ってどう怖いのかを検証してもらいたい。 「いいじゃないか。理論値と実測値を合わせれば問題ないだろ。正三角形のモデルを利用してだな」  さらに優我まで参戦し始める。こういうモデル化をするのは物理学の得意分野なのだ。 「ストップ。行かないとまた井戸の時のような検討違いを起こすぞ」  莉音がここではまとめ役になってくれた。さすがは三年の中でまともな人物である。ここで彼まで物理談議に加わったら終わりだった。  それに井戸というキーワードに全員が止まったので助かるところだ。あれは思い切り失敗している。
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