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「そうだよな。不思議でなければ見向きもされないんだ」
亜塔が悲しそうに呟いた。これはこれで楽しいというのが伝わらない現実を儚んでいるらしい。
「よし。ここにいては駄目だ。諸君、メジャーだけ持って行くぞ」
桜太はもう準備するという行為を放棄した。ここで時間を使えば使うだけ変な方向に流れていく。放っておけば理論値も立派に弾き出されてしまうだろう。
ぞろぞろと科学部メンバーが向かう音楽室は北館の五階にあった。五階は二階と違って日当たり抜群で風通しもいいのだ。なぜなら高さとして南館の影になることもないし、北側に広がる木々の邪魔も受けない。おかげで二階から上がると別世界だった。
「あの、大丈夫ですか?」
音楽室を覗くとまだ生徒が何人か残っており、さらにピアノに向かう顧問の見延健吾を取り巻く女子たちもいる。吹奏楽部は活気のある部活なのだ。桜太は気が引けてしまう。ちなみに顧問の見延は定年間近の丸眼鏡を掛けた好々爺風の人物だ。
「ああ、大丈夫だよ。松崎先生から聞いている。君たちは邪魔しないようにね」
見延はイメージどおりの優しい声で答えた。しかも吹奏楽部のメンバーに声を掛けて協力するようにしてくれている。
「何、あの眼鏡集団」
「さあ」
音楽室にぞろぞろと入ってきた科学部のメンバーを見て、見延の傍にいた女子たちが口々にそんな感想を言う。おそらく彼女たちは文系なのだ。変人の吹き溜まりとの噂すら届いていない。
「私は眼鏡じゃないのに」
ぼそっと千晴は呟いていた。しかしこれは不可抗力である。8人中7人が眼鏡。つまり眼鏡着用率は87.5パーセントにも上る。これでは誰が見ても眼鏡集団だった。
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