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「これが問題の肖像画か」
亜塔がじっと肖像画を見つめた。肖像画はピアノのある入り口から奥に進んだ掲示板に貼られていた。そこには五枚の絵がある。どれも有名な音楽家のはずだが、亜塔には誰が誰だか解らない。おそらく中学で習っているのだろうが、そんなものは忘却の彼方だった。
「五。素数」
小さく呟いてほくそ笑むのは迅だ。さすがは素数大好き人間。こんな場面でも反応してしまうらしい。横にいた千晴は思わず引いた。
「何が怖い原因なんだろうな」
話が逸れない内にと桜太は咳ばらいをして切り出す。このままではまた怪談要素が抜け落ちてしまう。
「たしかに。あからさまに目線が合うっていう代物ではないんだ」
話を拾ってきた千晴は協力する。五枚の絵は確かに左を向く絵が右側に、右を向く絵が左側にあって目が合いそうだが、すぐに全部と合うということはない。
「ある程度の距離が必要に決まっているだろう。五つの点がちゃんと交わらないと」
何を今更という調子で優我が話の腰を思い切り折った。もう目ではなく点と言っている時点で回復不能なほど三角形の問題になっている。
「そうだな。体感してみるのが手っ取り早い」
ここでは生贄としての心意気を発揮した芳樹が話をまとめる。もう亜塔だけの暴走では済まないのだ。
提案に従って八人は後ろに下がり始めたが、すぐに誰かとぶつかって無理だと気づいた。絵の幅からしても八人同時に眺めることは出来ない。
「この辺ですか?」
「あれだ。あの真ん中の白髪が中途半端なところを向いているんだ」
最後まで押し合いへし合い検証しているのは楓翔と亜塔になった。二人は井戸での意気投合以来、仲が急速に良くなったらしい。その二人の位置はどんどん左にずれていた。
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