第1章

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「62」  千晴が読み上げる。やっと科学部らしいと思えて満足だった。 「おっ」  すると迅が閃く。数字となれば彼が早いのだ。 「何か解ったか?」  横にいた桜太が訊ねる。 「これ、直角二等辺三角形でいけるよ。大倉先輩と掲示板の距離が62。そして千晴と左端の目の位置はどうやら底辺の3分の2の位置らしい。するとこちらも62だ。すると斜辺を求めるのは簡単で、62×√2を計算すればいい。すると結果は87.6となるわけだ」  すらすら計算を披露する迅に、残っていた吹奏楽部からおおっと感嘆の声が漏れる。数学が役に立つ瞬間を目撃したからだ。文系からすれば今まで散々役に立たないと思っていただけに、利用している人がいること自体が奇跡だろう。 「すると、残った方も直角三角形だから、底辺が31で高さが62。これを三平方の定理に当てはめると、31の二乗×62の二乗か。うっ、4805。これは整数では出ないな」  残りの計算を始めた桜太は唸りつつも4805をどうにか二乗される前に戻そうとする。 「適当でいいよ」  莉音がそっとアドバイスする。電卓なしに厳しいだろう。 「じゃあ、大体69.5ってとこですかね」  桜太は何とか当たりを付けた。 「これだけいびつだと、確かに目が合う確率は低いだろうな。そうすると、合った瞬間が怖くなるわけだ」  まとめた芳樹の言葉に、科学部のメンバーはうんうんと頷く。これでいいのかとの突っ込みなしだ。 「いやあ。まさか数学で出すとは思わなかったな」  ここで見守っていた見延が感想を言った。そして全員の肩を叩いて労う。 「えっ?数学以外に方法ってありましたっけ?」  桜太が不思議そうに訊いた。頭から三角形の問題としか思っていなかったので意外だ。
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