4人が本棚に入れています
本棚に追加
冒険者で賑わう2日目の夜が終わった。
定期便は夜更けに出立し、比較的安全な村の周囲を夜明けとともに抜けていく。
俺は自室でナイフを見つめていた。
月明かりを反射するナイフは、純粋に美しかった。元の持ち主も、血に濡らすことはしていなかったのだろう。
幼なじみの魔女の言葉が、頭のなかを巡り続ける。
俺は、どうしたかったんだろう。
きっとこの世界はもう、待っているだけで夜明けが来るような安住の地ではない。
変わるのだろうか。変えられるのだろうか。
俺はどこから湧いてくるかもわからない焦燥に追い立てられるように店を飛び出し、定期便の馬車を追っていた。
馬車はゆっくりとスピードを上げている。
走りつつ伸ばした手が、幌を掴みかけては離れる。足の回転数を上げるほどに馬車も速度に乗っていく。
ただの村人が、こんな衝動的に旅立ってなにができるというのだろう。
唯一の取り柄は、魔法耐性が高いだけ。それで普通は気づけない、勇者様の死のカラクリに気付けた。ただそれだけだ。
最後の力を振り絞って伸ばす腕。しかし指先は、荷台に触れるだけで離れてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!