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俺には、後生大事にしているものがある。
それは、職場の酒場で冒険者が忘れていったナイフ。村暮らしには到底手が届かない業物だ。
持ち主はもう何年も取りに戻らないので、「そういうこと」だとして譲り受けた。
冒険者は、五体満足に目的地へ着けるだけでも感謝しなければならない。そんなご時世だ。
せっかくの業物を活かすのであれば、酒場に訪れる他の冒険者たちに譲るのが正解だろう。商店に売って、上物の衣類でも買ったほうがよほど役立つ。
だけど俺は、使いみちのないナイフを手放せないでいる。いつかこのナイフから、何か変わるような気がするから。
そんなことを夢想して、もうどれくらい経っただろう。
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