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勇者様の話題が繰り返されることはなく、夜更けには穏やかに酒を酌み交わしていた最後の客も帰っていった。
「珍しいこともあるもんですね」
テーブルを拭きつつ、マスターに声をかける。
「なんのことだ」
「いやだな、さっきの勇者様の話ですよ」
「ん……ああ、そうだったな。勇者が死んだのは……2年前か。勘違いをしているやつも多いんだな」
背筋に氷柱でも当てられたようだった。マスターはいくら客に勧められても、仕事中に酒を飲むことはない。
「……え?」
「ん、どうした」
マスターは至って真面目だ。冗談を言っているわけじゃない。
「あ、いや、なんでもないです」
そもそも、言い争いの最中も不思議ではあった。どうしてこれだけの人間がいて、だれもが1年前から3年前としか言わないのだろうと。
あれから4年が経った。勇者様が死んだのは、4年前のはずだ。
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