01・再会

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 ――あれから、数年が経つ。  全てが変わった、あの気まぐれの日から。  イツカと呼ばれる男は、夢を忘れられない。  寝ている時も、起きている時も。  それは、非現実の光景ではない。かつてあった、ある選択の光景だ。  だがその現実は、眼の前の女性に遮られる。 「あなた? ……大丈夫、ですか」 「あ、ああ。大丈夫だ」  声をかけ、夫の心配をする女。名をスイという。  二人は夫婦として、平穏な暮らしを送っていた。  イツカは線が細く、男としてはやや頼りないような身体つきをしていた。  だが、眼だけは妙な鋭さを持っており、触れては切れるような空気を感じさせてもいる。  逆にスイは、女性らしい身体つきと穏やかな雰囲気を持っており、対比的だった。  その柔らかさは、イツカの鋭さを和らげるようにも働いていた。 「大丈夫なら、よかった」  ほっと一息、安心の息を吐くスイ。  壁に掛けられたネジ巻き時計を見ながら、イツカに告げる。 「ただ、ご無理はしないでくださいね」 「わかっているよ。……もう、昔とは違う」  ――闇夜を駆け、眼を血走らせた、過去の記憶。  だが、もうその日々はない。  刃を捨て、クワと書類を持つのを選んだことに、後悔はない。  愛する妻との記憶で、過去の臭いを沈めていく。 「あの、体調がお悪いのなら」 「そろそろ、村のみんなとの打ち合わせだから……行ってくる」  そう言い、少し不安そうなスイを家に残し、イツカは役場へと向かう。  週一回の、定期的な会合。  小さい村落ゆえに、田畑の予定や物品の取引など、顔見知り内での調整が必要となる。  ただ、移住してまだ数年だが、村の者達からの評判も良い二人でもある。働き者の需要は、いつの時代も変わらない。  イツカは翌々月の祭りの準備案を考えながら、役場へと足を踏み入れた。 「……?」  そしてそこで、イツカは奇妙な雰囲気を感じた。
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