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会合は、来訪者であるミナギの言葉で、警告を告げるものとなった。
『魔物の潜伏と、その警戒。討伐者による調査』。
それが、ミナギがこの村へ来訪した理由だった。
――そして今、イツカとミナギは、役場の裏で二人対峙する。
「僕の前から去ると言った時のこと、まだ、忘れてはいないよ」
「……」
「なにも、言わないのかい?」
首元に伸びる、ミナギの指先。
――かつて、イツカの肌を何度も磨き上げた、五本の道しるべ。
「目的は、なんだ」
ぱしん、と音がしたわけではないが、ミナギの顔に揺らぎが走ったのは見えた。
「目的ぃ? ふふ、さっきの会合で言ったとおりだよぉ?」
なにかをあざ笑うような声で、ミナギは両の手の平を合わせる。
低く、腹の底から抜け出てくるような、不気味な声。昔と、変わらない。
「俺はもう、退役した身だ。刃も、握っていない」
「知ってるよぉ。当たり前じゃないか」
――身体を奪われながらも、この男の考えが、読めたことは一度もない。
「だから、さ。だから、君の身を、僕が守りにきたんじゃぁないか?」
「……!」
耳元に吹きかけられた、吐息。
「やめろ。俺は、もう」
「そうだねぇ、あの女のせいで、君は僕を拒否した」
その記憶を想い出し、イツカの胸が苦くなる。
生きる目的もわからず、心が死んでいた日々。身体がどうなろうが、あの当時はかまわなかった。
「そして、あの女のせいで、君は化け物どもを切れなくなったんだ」
――だが、あの日の気まぐれと、スイと出会ったことで、イツカのなかのなにかが変わった。
「あの、ドブネズミのせいで」
だから、ミナギの罵詈に、怒りがわき上がる。
「ミナギ……!」
「あはは、変わらないねぇイツカ。その正直なところ」
弄ばれている、のはわかっていた。
が、妻を罵られて黙っているわけにはいかない。
しかし、ミナギにその怒りは届いていない。
「その真っ直ぐさ、つけ込まれるよ。あぁ、僕だけじゃないよ、簡単だ。君は愚かなんだから」
「俺は、彼女と平穏な生活を送る。愚かなんかじゃない」
ふっと、ミナギは笑った。
「嘘はいつか破れるものさ。信じ込んでしまっても、ね」
「なんのことだ……?」
くるりと、ミナギは背を向ける。
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