02・対峙

2/3
前へ
/25ページ
次へ
 会合は、来訪者であるミナギの言葉で、警告を告げるものとなった。  『魔物の潜伏と、その警戒。討伐者による調査』。  それが、ミナギがこの村へ来訪した理由だった。  ――そして今、イツカとミナギは、役場の裏で二人対峙する。 「僕の前から去ると言った時のこと、まだ、忘れてはいないよ」 「……」 「なにも、言わないのかい?」  首元に伸びる、ミナギの指先。  ――かつて、イツカの肌を何度も磨き上げた、五本の道しるべ。 「目的は、なんだ」  ぱしん、と音がしたわけではないが、ミナギの顔に揺らぎが走ったのは見えた。 「目的ぃ? ふふ、さっきの会合で言ったとおりだよぉ?」  なにかをあざ笑うような声で、ミナギは両の手の平を合わせる。  低く、腹の底から抜け出てくるような、不気味な声。昔と、変わらない。 「俺はもう、退役した身だ。刃も、握っていない」 「知ってるよぉ。当たり前じゃないか」  ――身体を奪われながらも、この男の考えが、読めたことは一度もない。 「だから、さ。だから、君の身を、僕が守りにきたんじゃぁないか?」 「……!」  耳元に吹きかけられた、吐息。 「やめろ。俺は、もう」 「そうだねぇ、あの女のせいで、君は僕を拒否した」  その記憶を想い出し、イツカの胸が苦くなる。  生きる目的もわからず、心が死んでいた日々。身体がどうなろうが、あの当時はかまわなかった。 「そして、あの女のせいで、君は化け物どもを切れなくなったんだ」  ――だが、あの日の気まぐれと、スイと出会ったことで、イツカのなかのなにかが変わった。 「あの、ドブネズミのせいで」  だから、ミナギの罵詈に、怒りがわき上がる。 「ミナギ……!」 「あはは、変わらないねぇイツカ。その正直なところ」  弄ばれている、のはわかっていた。  が、妻を罵られて黙っているわけにはいかない。  しかし、ミナギにその怒りは届いていない。 「その真っ直ぐさ、つけ込まれるよ。あぁ、僕だけじゃないよ、簡単だ。君は愚かなんだから」 「俺は、彼女と平穏な生活を送る。愚かなんかじゃない」  ふっと、ミナギは笑った。 「嘘はいつか破れるものさ。信じ込んでしまっても、ね」 「なんのことだ……?」  くるりと、ミナギは背を向ける。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加