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「死んじゃヤダよお母様!」
泣きながら、体の弱った親を心配する…神の子とはいえ、まだ幼子。幼い彼女には、ただ目の前で親が弱っていく、という事実しかなかった。
神は一生のうち一度だけ子を産む。その子は決まって女児…つまりこれまで神というのは例外なく女性である。
それは何故か…一説には、赤子を産むのは母体と決まっているからと言われている。神は、伴侶を必要としない。男性と愛することなく、その身に子を宿すのだ。
その子供が成長した暁には、神の座、そして力を受け継ぐ儀式が行われる。しかし稀に、今回のように子が成長しきっていないうちに…といったケースもある。
百年生きていてもまだ未熟な幼子。しかし神の力を受け継ぐことが出来るのは神の血筋だけ。力の譲渡は死に別れの間際、その儀式が行われる。
だが今回のようなケースがあっても、今まで子が生まれる前に神の死がなかったのは、何とも不思議な話である。
「ふふ…こっちへ来なさい」
ディウオスは、泣いている我が子を手招きする。いつも凛々しく威厳を放つ表情だったが、今だけは愛しい我が子を見つめるそれだ。もう泣くなと、安心させるように。
不安がないわけではない。それでも、最愛の我が子に力を継がせる。自分が神とは何たるかのあれこれを教えることはもう出来ないが、きっと周りが助けてくれる。
…周りは皆、信頼に足る者達だから。
「お母様ぁ!!」
「強く生きなさい…立派な神になるのよ、エルシャ」
腕の中で泣く我が子を抱きしめながら、力を譲渡する。そして、それが終わると同時…静かに、彼女は逝った。
-この日、神の世代交代が行われた。
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