第1章

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 積み上げられた資料を見て、思わず溜息が出た。 やりたくもない他人の仕事を請け負ってしまった、少しの苛々。 そして、恋愛でキラキラしている相田さんへの嫉妬心。 本当は、相田さんみたいな人を羨ましいと思っているのも自分でわかっている。 素直で甘え上手な素振りが、可愛いを絵に描いたような女性。  ……わかっているのに。自分にないものを持っている相田さんを真っすぐに見られない、卑屈な自分が好きじゃない。  佐伯百合子、27歳。アラサー、独身、彼氏いない歴4年。 結婚適齢期のはずなのに、そんな予定は微塵もない。惨めだな、と自分自身をあざ笑う。趣味は読書とゲーム。しかしオタクと名乗れるほど、振り切って突き詰めたということでもない。  まわりの友人は結婚し、その上、出産も経験して、可愛い子供と愛する旦那。幸せな家庭を築いている人が、多くの割合を占めるようになってきた。 27にもなると、知らない間にそこそこ結婚式の場数を踏んでいる。 自分のことは何一つわからないけれど、他人の結婚式の様式には詳しくなってしまった。 ご祝儀は3万くらい。式へ参加する友人と協議を重ねて、なるべくみんな同じくらいの金額になるように。お呼ばれのドレスは、あわせやすくてスタンダードなものをと思っていると、他の女性参列者とかぶってしまって、逆にめでたくない印象を与えてしまう。 ちょっと渋めのブルーやグリーン。 黒ではないけど、ピンクやベージュ系の色を選ばないあたりが、私らしいなと思っている。  真面目でネガティブ。けれど、一見わからない。 本質は、暗いほうなんじゃないかな、とは思っているけれど、与える印象は逆だということも自覚している。 ニコニコして見える顔つきのせいか、愛想は良く思われているし、付き合いもそう悪くない。 飲み会に誘われたら、余程のことがない限り参加するし、何より、仕事に終始する勤勉な姿勢が好印象らしい。 全く、とんだ色眼鏡で見られているようだ。
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