その時、少女は記憶に蓋をした。

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 わたしは、黒くて柔らかな、革張りのリクライニングチェアに寝そべり、部屋全体を暖色に照らす天井を眺めていた。  薄茶色に包まれた部屋。広くも狭くもない。  電球色のライトは落ち着くというけれど、わたしはそうは思わない。色付きのフィルムが貼られた、子供向け玩具眼鏡を通して世界を見ているようで、とても落ち着かない。  胸から下にかけられた毛布も、元の色が分からない。  まるで、そう──嘘の世界を見ているように。  わたしは、真っ白な、昼光色が好き──。  仰向けで寝そべるわたしの右側には、中年女性が高座椅子に座っている。大きな指輪のついた手で、わたしの眉間に触れると、同じ言葉を何度も繰り返した。  わたしは、手をおへその下の方で組み、深く、深く、ゆっくり、ゆっくり、深呼吸をして、女性の言葉に耳をそばだてる。  瞼が重くなってきた。怖さは無い。肩の力が抜けていき、次第に体全体から魂が抜け出るかのように、力がどんどん失われていく。  わたしは────。  わたしは──。  わたしは。
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