あの頃、君と

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帰り道は君とゆっくり歩く。 お互いに相手に歩調を合わせようとするせいか、馬鹿にゆっくりになってしまう。 でも、それがいい。 君と2人で歩く時間を少しでも長くしたかった。 話すことは、授業中の居眠りのこと。残した給食のこと。もうすぐ引退する部活のこと。 どれも他愛ない話。 でも、時々、政治の話もした。 大人たちはきっと考えもしないだろう。中3の僕らが、学校帰りに日本の将来を真剣に憂えていることなんて。 「僕らに任せてくれたら、野次なんか飛ばさないで、より良い日本を作ってみせるのにな」 そんなことを言う僕に、君はうんうんと頷いてくれた。 城山(じょうやま)の手前の田んぼは、もうだいぶ稲が長く伸びている。 あぜ道に下りて用水路のような細い川に近づくと、蛇イチゴの黄色い花を踏みそうになる。 その小さな花を君が好きだと知っているから、踏まないように気をつけて歩いていく。 いつの間に摘んだのか、君は持っていた蛇イチゴの実を川の水で洗って、僕の前に差し出す。 パクッと咥えると、君は嬉しそうにクスクス笑う。 それがとてつもなく幸せだと思えた。 2人で笹舟を作って川に流して、行方を目で追いかける。 カラスの鳴き声がして、ああ、帰らないとと気づかされる。 学校で決められている通学路は、朝、僕が走ってくる道。 でも、君と2人で帰るときは、違う道を通る。 細いあぜ道を1列になって進んでいくと、城山に入る。 昔の城跡らしいが、城らしきものも山らしきものもない。木が鬱蒼と茂った雑木林。 その入り口に、半夏生(はんげしょう)が生えていた。
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