あの頃、君と

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僕たちの中学校は、家から走って20分の距離にあった。 『走って』と言うのは、歩いてどれぐらいかがわからないから。 毎朝、遅刻ギリギリになって家を飛び出して、走って登校する。 南武線の踏切を渡って、坂道を転がるように駆け下りていく。 甲州街道は交通量が多いから、信号無視なんて絶対にできない。 赤信号で止まったら、焦る気持ちを抑えながら一息つく。 住宅街の中の細い道を走っていくと、やがてチラホラと三中の生徒が見えてくる。 僕と同様に走っている生徒もいれば、諦めて悠然と歩いている生徒もいる。 そんな生徒たちを追い抜かして走り続けると、突然視界が開ける。 右側にあった城山(じょうやま)を抜けて田んぼが現れるからだ。 遥か前方に校舎が見える。 その更に彼方の中央高速を走る車に朝日が反射してキラキラ光る。 「げっ!」 ぶにゅっという嫌な感触で、自分が何を踏んづけたか気づく。 アスファルトに点々と見えるのは、潰れて死んだカエルたちの白い腹だ。 この時期、雨上がりの朝は、こんな残酷な光景に出くわすことがある。 それを一々避けては走れないから、だんだん気にしなくなる。 校門を入って上靴に履き替える頃には、自分が踏んづけて来たモノのことなど、すっかり忘れ去っている。 「おはようございまーす!」 階段で担任を抜かして教室に滑り込むと、みんなが拍手で迎えてくれる。 すかさず君に目を遣ると、呆れた顔で拍手している。 これが僕の日常だった。
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