ウソからくるマコト

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「なぜ、君は、そんなに下ばかりを向いているんだい?」  僕はうつむいたままだから、担任教師の声だけが耳に入ってきた。 「見事な成績だった。あれは君の努力が実を結んだものだ。だから、もっと自信を持って、堂々としていたらいいじゃないか」 「は、はい」  僕は部活動で優秀な成績を収めた。そして、それが学校内でちょっとした事件のように扱われた。  みんなが僕を褒めてくれる。それは嬉しいに決まっているけれど、褒められて妙に心が軽くなり、フワフワもする。この気分は、どことなく嘘っぽいとも感じる。  素直に喜べない。  見事な成績も、みんなが褒めてくれることも、褒められてうれしい気持ちも、みんな嘘なんじゃないか――と。  褒められれば褒められるほど、褒められて嬉しくなるほど、怖くもあった。  誰かが影から有頂天になってる僕を見て笑っているんじゃないか――と。 「自分が信じられないか? それとも、自分を褒めてくれる人を信じられないのかな? どっちでもあるか?」  担任のその言葉に僕ははっとなって顔を上げた。 「じゃあ、次からスポーツで良いプレイをしたら、こう思えばどうかな?」  担任教師は唇を尖らせて言った。 「嘘…でしょ…」  そして笑った。 「良いプレイをしたら嘘でしょって自分に言ってみろ。それが百回も繰り返されば嘘じゃない、自分はすごいとわかる」 「そうなんですか? わかるような、わからないような……何かおかしいですよね」 「自分で自分にツッコミを入れるようなものだからな。おかしいよな。いいか!」  担任教師は自分の胸をどんと叩いて言った。 「Take it easy! ってことだ」 「お、おう。いや、はい!」  僕は何だか笑えてきた。この気持ちが今の自分への答えになるのかもしれなかった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!