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「なぜ、君は、そんなに下ばかりを向いているんだい?」
僕はうつむいたままだから、担任教師の声だけが耳に入ってきた。
「見事な成績だった。あれは君の努力が実を結んだものだ。だから、もっと自信を持って、堂々としていたらいいじゃないか」
「は、はい」
僕は部活動で優秀な成績を収めた。そして、それが学校内でちょっとした事件のように扱われた。
みんなが僕を褒めてくれる。それは嬉しいに決まっているけれど、褒められて妙に心が軽くなり、フワフワもする。この気分は、どことなく嘘っぽいとも感じる。
素直に喜べない。
見事な成績も、みんなが褒めてくれることも、褒められてうれしい気持ちも、みんな嘘なんじゃないか――と。
褒められれば褒められるほど、褒められて嬉しくなるほど、怖くもあった。
誰かが影から有頂天になってる僕を見て笑っているんじゃないか――と。
「自分が信じられないか? それとも、自分を褒めてくれる人を信じられないのかな? どっちでもあるか?」
担任のその言葉に僕ははっとなって顔を上げた。
「じゃあ、次からスポーツで良いプレイをしたら、こう思えばどうかな?」
担任教師は唇を尖らせて言った。
「嘘…でしょ…」
そして笑った。
「良いプレイをしたら嘘でしょって自分に言ってみろ。それが百回も繰り返されば嘘じゃない、自分はすごいとわかる」
「そうなんですか? わかるような、わからないような……何かおかしいですよね」
「自分で自分にツッコミを入れるようなものだからな。おかしいよな。いいか!」
担任教師は自分の胸をどんと叩いて言った。
「Take it easy! ってことだ」
「お、おう。いや、はい!」
僕は何だか笑えてきた。この気持ちが今の自分への答えになるのかもしれなかった。
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