第1章 出会うってだけじゃ 物語は始まらないんだよ

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「中身」 青年の溜息。作業を諦めて静かに釣具を廊下に置くと、ギターケースを手に取って、そのファスナーを下ろした。 中から出てきたのは黒い鉄の塊。二つに分解されても重々しく細長いその躯体に、トレンドマークのような手肩の当たる部分の木製の部品。 「AKじゃねえか。なんでこんなガキが?」 幾年もの間、世界中で今も幾万人もの血を吸い続けているアサルトライフル--AK47。 改めて眠れる少女を見下ろす。まだハイスクールも迎えていないような年頃。セーラー服から伸びる細い手脚からは到底想像できない。見た目通り学校の軽音部で遊んでりゃいいものを。 「エロいことしてねえだろうな」 「しねえよ。ていうか死ね」 言い返しながら小銃のマガジンを確認して、手慣れたように組み立てていく。 「貴様ぁ、上官に向かっていいご身分だな」 女が笑みを浮かべながらポキポキと手を鳴らすが、真彦は意にも返さず嘆息。 「上官のように扱ってほしいならもう少し上官のように振舞えよ、夢子」 「こいつっ」 と、女が殴りかかろうとした時である。 「ここ、どこ?」 少女が目を覚ました。さっと体を起こしたかと思うと見覚えのない場所に眠り目を擦って必死で状況を探ろうとしている。艶やかな黒髪は寝癖で翻って、なんともマヌケだった。 「あ、起きた」 と一緒に、女ーー夢子はくわえていたタバコをポロっと青年の頭に落とした。 「あ、熱っ」 さらに青年の悲鳴もさることながら、少女は寝ぼけているのか、慣れないハンモックから抜け出そうとひっくり返って、鈍い音を立てて頭から地面に落ちた。 「............痛い」と可愛らしい声。 同じタイミングに違う事象で二人、ぷるぷると頭を抑えている光景。
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