チャットの彼女

第一話

おれは伊藤タケシ。３４歳で地元の零細企業でごく普通の会社員だ。

家族は、嫁と子供が２人いる。嫁とは２５歳で結婚している、かれこれ結婚１０年というところ。

子どもたちは２人とも小学生になり少しずつではあるが手がかからなくはなってきた。

今の暮らしが幸せかといったら、幸せなのだろう。

しかし、この仕事にもやりがいを感じられずに、だらだらと毎日の仕事をこなす毎日。

家に帰れば嫁が子どもたちを叱りつける。おれが、なにか言おうものなら、「あなたは、一日子どもたちと居ないからそんなこと言えるのよ」と言われ矛先がおれに向けられたりする。

こんな生活だが、とても幸せだ。

しかし、刺激が足りない．．．！

刺激を求めるにしても月１万円の小遣いでは、ギャンブルだって風俗だって行けやしない。

そんな、悶々とした日々を送っていた時。スマホでネットをしていると、ポップアップで広告があらわれた。

いつもは、そんな広告すぐに消してしまうのだが、なぜかその広告に目が留まった。

『業界初！出会わないチャット』

チャットと言えば、世の出会いを求める男と女が本当の名前ではないハンドルネームでパソコンやスマホで会話するサービスだ。その多くは、チャットレディと言われる金稼ぎのサクラが大多数らしい。

しかし、この『出会わないチャット』という、フレーズが妙に気になり、アプリをダウンロードしてしまった。

アプリは、１分足らずでダウンロードが完了した。

アプリを開くと、簡単な設定画面が表れた。

そこに名前やメールアドレスなどを入力する。アイコンは自分の顔にすることはできないので、最近スマホカメラで撮ったアジサイの花に決定した。

設定が終わるとトップ画面が表示された。

トップ画面は、白と青を基調としたもので、さわやかなだった。

そこにずらっとアイコンが並ぶ。本人？の写真やプリクラ、好きな芸能人などのアイコンが映し出される。

この中におれと会話してくれる相手がいるのだろうか？

久々に気持ちが高鳴るのはなぜなのだろう。

それは、自分には愛する妻と子供たちがいるのにも関わらず他に出会いを求めるという背徳的な感情のせいなのかもしれない。