かすみ

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かすみ

私の名前はかすみ。中学3年生。 双子の姉が居て、名前はあすみ。 私たちは一卵性の双子。 容姿も声も血液型も性別も全て一緒。 生まれて物心ついた頃には同じ顔があった。 驚いた事はない。 そっくりだから、親さえ見分ける事ができない。 でも、別に見分けてほしいと思ったことはない。 。。。 卒業式の日、私の下駄箱にラブレターが入っていた。 「ねぇ、あすみ。代わりに断ってきてくれない?」 「うん、わかった。いつも通り、男子恐怖症で良いんだよね?」 「うん、いつもごめんね。」 「気にしないで。帰りは公園で待っててね。」 「うん。」 そう言いながらも、私は隠れて告白を見ていた。 あすみは言わなくても良い事を言う。 今だって。 言って男の子は泣きながら帰っていった。 去って行くのと同時に私は公園に向かった。 あすみは昔から言わなくても良いことを言う。 誰かが言う事をわざわざ言う。 良いことも、悪いことも。 あすみはいつだって先頭に立って、みんなを率いてる。 周りにはいつも友達がいる。 あすみは『輝いている。』 誰かが言うことは私が言わなくても他の誰かが言ってくれる、そういう考えだから。 私は何も言わない…。 …言えない。 私は『輝くこと』が出来ないあすみの偽物。 公園に着くと、鞄をベンチに置いてブランコに乗った。 すると隣の家のお兄さんがやってきた。 高校生だっけ。 「おかえり。君はどっちの方かな?」 「かすみ。」 「やっぱ見分けつかねぇや、ごめんな。」 「もう馴れたよ。」 「そーいや、今日卒業式か!おめでとう。」 「ありがとうございます。」 かすみは素っ気なく返すけどお兄さんは全く気にしていないみたい。 「告白とかされた?」 「…うん。」 「…嬉しくない?」 「どうせ、数年後には別れてると思ったから。」 「そうかもしれないね。 でも、そうじゃないかもしれないね。」 私は首を傾げた。お兄さんはつづけた。 「気持ちは変わっていくものだろ? 明確な物が欲しいのは、分かる。 でも、人の気持ちはいつだって曖昧で、変わりゆくものさ。 それを経験していくか、していかないか、じゃないかな。」 私はどこかで見つけてほしいと見分けてほしいと思ってたのかもしれない。 でも、話を聞いて曖昧で良いと思った。 「そう…かもね。」 本物だと思った。
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