転ノ章5.5 わたしが君を、

13/14
前へ
/237ページ
次へ
優はゴソゴソとズボンを履いてベルトを締めて、茜の目の前にドカッと胡座をかいて一言。 「俺のは自分で蒔いた種だけど、鳶沢のは勝手に蒔かれた種だ。そのくせ理想の花が咲かなかったからって、無責任に千切ってポイとか横暴すぎる。鼻摘みしたくなるようなくっさい花にも、咲き誇る自由はあるはずなんだ」 「わたし、くっさい花なの?」 「言葉の綾だ。だからその拳を下げろ」 優が青ざめて後ずさりすると、茜は堪え切れないように「プッ」と小さく吹き出した。 そしてどさりと仰向けになって、無機質な天井をじっと見つめる。 「……わたしね、ここの屋上が好きなんだ。遠くの九隠山がよく見えて……わたしの本当に欲しい居場所はそこにあるんだって、愛しい気持ちと決意を強く実感できる場所だから」 夕陽の朱が差し込み始め、優も小さな日溜まりへと仰向けになった。 無機質な天井を眺めながら、そこに茜の未来の展望を描く。 「だからいつも此処にいたんだな……でも、見つめてばかりじゃつまらねえよ。手を伸ばして、掴み取ってやろうぜ」 「うん」 茜の声音にもう迷いはない。 顔にかかる夕陽が眩しい――眩しすぎて、思わず優は目を細めた。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加