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「俺、鳶沢の母ちゃんにガツンと言ってやるつもりだったけど、邪魔になるような気がしてきた」
茜の意志は充分に強くなった。ならば家庭の問題を話し合う席に、もはや赤の他人の自分は必要ないのではないか――優がぽつりとその思いを零すと、茜がガバッと上体を起こした。
それを感じ取った優も、「よっ」と勢いをつけて上体を起こす。
そして茜は首を振って、優の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「そんな事ない。こんなわたしを認めてくれる氷室が側にいてくれたら心強いし、自信も持てる」
「――っ! ……そ、そっか」
茜が向ける信頼が気恥ずかしくて、優は赤くなりそうな顔を夕陽の中に溶け込ませる。
――優にとっての鳶沢茜は、最初は避けていた他人の中のひとりだった。
それが殺したいほど憎く思うようになり、今では救われて欲しいとまで思うようになった。
自分でもいい加減だと思う。けど、そんな自分が嫌いじゃない。
「……じゃあ最終局面までは死にたくても死にきれねーな。『不審者だー』って襲撃されない事を祈るのみだわ」
「それなら心配いらないよ。それだけは絶対にわたしが阻止する」
そして茜は柔らかく笑って、
「わたしが君を、守ってあげる」
殺せない少女は、殺さない道を選んだ。
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