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「……さて、じゃあ敵地へと案内してもらいましょうかね」
「敵地って……まあいいわ。こっちよ、ここから先は私道になるわ」
腰を軽く捻り終えた優に、茜は道の先を指差しながら誘導する。その腕には彼女の白い肌よりなお白い、純白の包帯が巻かれていた。
誤解のないように言っておくが、包帯を巻いているのは決して厨二病的なコスプレではなく、まだ右腕に残っている痣を隠すための処置である。
痛み自体は予見していた通りに一晩でほぼほぼ治まったのだが、どす黒く広がった内出血の痕だけは一日二日で消えるはずがなかった。
茜に先導される形で人気(ひとけ)のない私道を進む。
アスファルトで整えられた道は急に道幅が狭くなり、一般的な乗用車でもすれ違い通行は出来そうにない。
左手を臨めば遠くに幾ばくかの田園が、右手を臨めばそこには延々と緑の山肌を囲うようにして、有刺鉄線付きの頑丈そうな鉄製のフェンスが高々と設(しつら)えられている。
「高圧電流が流されてるから触らない方がいいよ」
「い――っ!?」
何の気なしにフェンスの安全そうな部分に触れようとしていた優は慌てて手を引っ込める。
九死に一生、危機一髪……茜が注意を入れてくれなければ、今ごろ指が弾け飛び、泡でも吹いて倒れていただろう。
それからは無言で私道を進む。緩い傾斜と高電圧のフェンスが続く道を歩く事十数分――私道が直角に折れ曲がり、森林の中へと延びていく先にフェンスで作られたゲートが現れた。
立ち入り禁止の場所によくあるあれだが、もちろんこれにも高圧電流が流されているだろう。
併せてそれとは独立した形で、門扉の両端上部に二基の監視カメラ。その中間上部に小型のスピーカーらしき通信機器が設置されていた。
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