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『久しぶりだね、茜。相変わらず活発そうで安心したよ』
「……久しぶりね、翠(あきら)。あんたもきっと元気なんでしょうね」
『そうでもないさ。今日は休暇貰ってるから骨休めをしているよ。……ところで』
と、そこで翠と呼ばれる男の言葉が止まった。監視カメラ越しに感じる視線に、優は無意識に唾を飲む。
『その付き添いの少年は?』
「クラスメイトの氷室優君。わたしの付き添いと、あと母さんにも会いたいって」
『氷室優……そう、懐かしい名前だね。ボーイフレンドのエスコートに僕も御一緒していいかい?』
「ちが……っ、彼氏なんかじゃありません! 此処と正門を開けてもらえれば、後はわたしたちで要件は済ませるから」
『そう? まあいいや、通してあげるよ』
あまりにもあっさり通行を許可されて、優は思わず「え?」と間抜けな声を出した。
それはあちらサイドも同じらしく、ざわざわとした不穏当な音声と翠がそれらを『まあまあまあ』と宥めているような音声が、スピーカー越しにこちらへと届けられている。
やがてざわめきは収束し『待たせたね』と翠の言葉の後に、金属の擦れる鈍い音を立てながら、ゲートがゆっくりと開かれた。
『じゃあ僕は正門で待ってるからね。また後で、茜。……そして、氷室優くん』
翠はそう残し、音声を切った。
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