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そしてその中でも異端であり異例なのが茜の兄、九条翠だ。
女系一族である九条の歴史の中で初めて誕生した男児であり、あらゆる面で未知数であった翠はその抜きん出た才能を瞬く間に開花していき、十四の半ばという早さで、男性で初めて一族の幹部にまで上り詰めた傑物だという。
「鳶沢の兄ちゃんを悪く言うのもあれだけど、幹部ってんなら注意はしておかないといけないか……」
「翠は性格悪いしズル賢いから、何か企んでても不思議じゃない。ここを通して貰えたからって気を抜いたりしないようにね」
優はしっかりと頷き、二人は森を貫く緩い傾斜の道を警戒しながら歩いていく。
周囲を注意深く見ていけば、鬱蒼とした杉や檜の幹には弾倉や刀傷のような跡がちらほらと残っている。
今は静かなこの場所だが、もし外敵の侵入があればここは火花散る戦場へと取って代わるのだろう……改めて強行突入する事にならなくて良かったと、優は胸をなでおろす気分だ。
フェンスを抜けて数十分。
生き物の鳴き声や気配も遠く不気味な静けさが広がる森が緩やかに拓け、やがて荘厳な総門が目の前に現れた。
高さは優の二倍ほど、おおよそ三メートル半と言ったところか。
瓦地の長屋の中間をくり抜くようにして重厚感ある茶褐色の門扉が設えられ、その左右からやや低い外構えが広大な敷地を囲むように伸びている。
その貫禄ある総門に掛かるは二文字の表札――『九条』。
その傍らに糸目の少年が立っていた。
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