転ノ章6 いざ、九条会へ

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九条本家の敷地内は総門の様式に相応しい、立派な純和風庭園だった。 入口から真っ直ぐに延びる石畳の通路。 その左手には石造りの大きな池や茶室、右手には様々な三尊石が並んでおり、それらの景観を装飾するように燈籠が配置され、マツやヒノキ、ツツジやツバキなどの常緑樹が鮮やかな色を添えている。 これがただの友好的訪問であれば、この庭園をゆっくりと目で楽しむ余裕もあっただろう。 しかし少なくとも優にはそういった余裕は無かった。 遊びに来たわけじゃない、口喧嘩をしにきたのだ。場合によってはそれだけに収まらない可能性もある。 心臓はドクドクと全身に血液を送り出しているはずなのに、逆に身体はどんどん冷えていく感覚。 この非日常的な雰囲気に飲まれるな、飲まれるな、飲まれるな――奮起しろ! 優は己を鼓舞するように拳をぎゅっと固く握り、茜と翠の後を歩く。どこかでコォンと獅子脅しが鳴る。 そしてしばらく歩いた先に、日本家屋の豪邸がその姿を現した。 全体的に暗色の木造建築で、見た目は『伊藤伝右衛門邸』に近い。 しかしこれだけの構えでありながら、自分達以外の人の気配が全くしないのは不気味に過ぎる。
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