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と、そこまで考えて優はそれ以上思考することを止めた。
現在の日本国憲法第九条はそもそもが穴だらけで、防衛庁は自衛隊とは別口に、秘密裏な形で直接的な武力を九条家に頼っているのではないか、とか、いろいろ考えてしまったけど止めた。
それきり二人は何となく黙り込んでしまい、無言の時が経過する。
この奥の間には雑音が混じるといった不粋な物は置かない主義なのか、壁掛け時計が見当たらない。
なのでどのくらい時間が経過したのかは正確にはわからないが、決して短くはない沈黙に優がやきもきしてきた頃……部屋の外から足音が近付いてきた。
そして出入り口の襖が静かに開かれる。翠が傍らに跪き、促されるようにして入室してきたのは、
「――翠、これはどういう冗談の類いか」
血のように真っ赤な和服に身を通した麗人が、優と茜を見て唾棄するように顔を顰めた。
長い黒髪を簪(かんざし)で後ろに纏め、その顔立ちは驚くほど茜に似ており、漂ってくる威圧感は先に対峙した翠のものと同質でありそれ以上。
もはや説明もいらないほどに明確な女傑に向かって、翠は跪き下がっている頭を更に下げて物申した。
「まごうこと無き、頭首への客人にございます。私の独断で招き入れましたが、頭首が九条に仇為すと判断されるのであれば、即刻処分いたします」
翠は二人を『客人』と扱った。本家の息女である茜を外部の人間として扱った事に、優は強い嫌悪感を抱く。
ちらりと隣に目をやれば、茜は悔しさと悲しさを綯交ぜにしたような表情で、畳を真っ直ぐに見つめていた。
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