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「ならば即刻退室させよ。不愉快ばかりで余興にもならぬ」
頭首と思われる女傑は蔑する視線で二人を睨む。その態度には我が子を前にした思いやりや優しさは皆無だ。
憤りを感じた優は対話本番前にも関わらず、批判の目を相手に返した。女傑はつまらなそうに瞑目した後、閉じた扇子の先を優へと向ける。
「お前、何奴だ」
「……茜さんのクラスメイトの、氷室優です」
優はなるべく冷静を装った上で、端的に自己紹介を済ませる。
すると女傑は僅かに目を見開き、「氷室……か」と小さく呟いて、優の顔を観察するようにじっと見つめた。
「お前、氷室豪(ひむろ ごう)の息子か?」
唐突に父親の名前が出されて、今度は優の方が目を見開いてしまう。
「そう、ですけど……」
「なるほど。よくよく見てみれば、生意気そうな目元や態度が彼奴によう似ておる……。そうか、氷室の息子であったか」
女傑はそう言ってひとり納得し、やや剣呑さを軟化させた。
何故そうなったのか理解が追いつかない二人をよそに、女傑は着物の裾を滑らせながら畳を進み、上座に座った。
「失礼。氷室の息子であるならば、確かに九条の客人としては相応しい。九条会頭首、九条柳が歓迎しよう」
翠に茶の用意を言い渡し、女傑の麗人――九条会頭首、九条柳は愉快そうに口元を綻ばせた。
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