転ノ章6 いざ、九条会へ

16/16
前へ
/237ページ
次へ
「ならば即刻退室させよ。不愉快ばかりで余興にもならぬ」 頭首と思われる女傑は蔑する視線で二人を睨む。その態度には我が子を前にした思いやりや優しさは皆無だ。 憤りを感じた優は対話本番前にも関わらず、批判の目を相手に返した。女傑はつまらなそうに瞑目した後、閉じた扇子の先を優へと向ける。 「お前、何奴だ」 「……茜さんのクラスメイトの、氷室優です」 優はなるべく冷静を装った上で、端的に自己紹介を済ませる。 すると女傑は僅かに目を見開き、「氷室……か」と小さく呟いて、優の顔を観察するようにじっと見つめた。 「お前、氷室豪(ひむろ ごう)の息子か?」 唐突に父親の名前が出されて、今度は優の方が目を見開いてしまう。 「そう、ですけど……」 「なるほど。よくよく見てみれば、生意気そうな目元や態度が彼奴によう似ておる……。そうか、氷室の息子であったか」 女傑はそう言ってひとり納得し、やや剣呑さを軟化させた。 何故そうなったのか理解が追いつかない二人をよそに、女傑は着物の裾を滑らせながら畳を進み、上座に座った。 「失礼。氷室の息子であるならば、確かに九条の客人としては相応しい。九条会頭首、九条柳が歓迎しよう」 翠に茶の用意を言い渡し、女傑の麗人――九条会頭首、九条柳は愉快そうに口元を綻ばせた。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加