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一気にばかばかしくなって水屋の奥に戻りかけた時、茶道口から茶席を覗いていた恭敬さんが嬉しそうにつぶやいた。
「あ、いたいた」
関らないでおこうと思ったのに、反射的に言ってしまっていた。
「……誰がだよ?」
「ん? 金太郎ちゃん」
「金太郎?」
……女じゃないのか?
意外な返答につい、聞きとがめてしまった。
すると、恭敬さんはさらに楽しげな表情を浮かべながら言った。
「うん。ほら、田村さんの隣に薫風(くんぷう)の制服着た女の子、いるやろ?」
一つの単語を耳がとらえた。
「薫風……」
どうしてそれが引っかかったのかを考えるより先に、目が茶席を追った。
「あ……」
自分が声を漏らしていたことも、気づいていなかった。
探る必要もなく、まっすぐ目に飛び込んできた姿。
「らら」、だ。
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