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「あの子、知ってるん?」
どうやら、しばらく「らら」を凝視していたらしい。
訝るような恭敬さんの声で我に返った。
薫風とは、自分の通う東稜高校と私鉄京トラムの最寄駅を同じにする薫風女子高校のことだ。
今はチャリ通だが、中学から中高一貫の男子校である東稜に通っていて、最初は京トラムで通学していたから、薫風女子の制服は知っている。
茶席内で薫風の制服を着ているのは一人。そもそも学生と言えそうな女子が他にはいないけど。
となると「あの子」とは、ららのことだろう。
ららが、恭敬さんをして他人の着物をぶんどってまで茶席に出るという暴挙に走らせる原因となった……女……?
女がらみだろうと勝手に推測していたとはいえ、取り立てて具体的な「女」像を描いていたわけではない。
けれど、今茶席でえらく緊張した様子で正座をしているららは、イメージ圏外というか、意外な気がする。
とはいえ、自分では押えているつもりだろうけれど、周りからみれば明らかに浮足立っている様子の恭敬さんを見る限り、ららが何らかの形で関わっているのは確かだろう。
ならば、ららに対して下手な反応を見せたら面倒なことになりそうだ。
関わるのは危険だと脳内で警告音を鳴らしながら、恭敬さんの問いかけに答えるために口を開いた。
「まあ……」
――え?
知らない。
そう答えるはずだった。
けれど、言葉になったのはなぜか「まあ……」だった。
言った自分が一番驚いた。
実際ららという女子は、一昨日たまたま会ったというだけの、「知ってる」とは言い難い存在のはずだから。
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