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ららとは一昨日、京トラムの駅で初めて会って、はからずも1時間足らずの時間を共有した。 とはいえ、それはかなりレアな偶然が重なって起こった事故のようなもので、当然ながら一昨日限りの関わりだと思っていた。 自分が京トラムで通学しているならばまだしも、チャリ通学だとあの駅は通らないから、これから出会う確率はかなり低いだろう。 それだけ、と言ってしまえる程度の関わりにすぎない。 事実として「知ってる」のは、薫風の生徒だということ。 名前は「らら」、苗字は知らない。 あとは父親が蒔絵(まきえ)師ということだけだ。 十分「知らない」と言い切れるレベルだ。 実際、普段の自分なら、明らかにおかしなテンションの恭敬さんに巻き込まれる恐れのある発言は、絶対に避けている。 むしろもう少し知っている相手だとしても「知らない」で通すくらいには用心する。 それなのに今日に限って、「知り合い」という恭敬さんの口ぶりがやけに自慢げに聞こえて、なぜか軽い反発心が起こった。 「知り合い」ってどういう相手を言うんだ? アンタのいう「知り合い」はわからないけど、こっちだって何も知らないわけじゃない。 そんな感情がどこからかわいてきた。 おかしな話だ。「こっちだって」と、まるで対抗心めいたものを燃やしている自分が理解できない。 それでも、「あの子、知ってるん?」と聞いてきた恭敬さんに感じたのは正体の知れない対抗心のようなもので、それが「まあ」と言わせたのだった。
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