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久しぶりに乗った京トラムはやっぱり混んでいた。 1年前からチャリ通の身に、路面電車独特の大きな揺れのなかでの満員電車はきつい。 無理してでも帰宅してチャリで出直してくればよかったかと少し後悔しながら、揺らがないよう足に力を込める。 チャリ……クロスバイクを走らせて学校へ向かうようになってからは、四季の移ろいというものに敏感になったと思う。 京のまちに長く暮らす人は「今は季節感もなくなってしもて……」と嘆くが、寒い暑い以外の変化を意識したことさえなかった東京育ちの人間にとっては、ここでの暮らしは今でも十分新鮮だ。 移ろいを感じるというのは、時節の変わりめの変化の豊かさを楽しむことだと知ったといえるかもしれない。 川沿いの桜の花が蕾をつけ、ふくらみ花開く瞬間までをつぶさに眺められるのはもちろん、肌に感じる風の温度、空の色……自然は時の流れに応じて変化しているということを五感で味わえるのだ。 それが心地いい。 東京で暮らしていた頃、そんな目線で外を眺めたことはなかった。 東京でだって空は見えるし、樹木だってある。けれども、そこに「ある」という以上の感慨をもったことがなかった。 そうした目線は伯父が束ねる藤野流の家元で、自然の移ろいを基本に置く茶の稽古を通して得た恩恵だとも思っている。 茶道に「勝手にのめりこんだ」のは、そういった未知なる体験にハマってしまったのがきっかけだったかもしれない。
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