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京トラム内で、外ポケットにしのばせた花小刀が飛び出さないよう、学生鞄の上から軽く手で押えながら、揺れに耐える。
一番大きなカーブで揺れたタイミングで顔をあげると、薫風の制服を着た女子がこちらに背を向けて踏ん張っているのが目にとまった。
路面電車のラッシュ時間は、バランスを崩すと妙な姿勢のままであっても数分耐えるしかない。
あの女子も多分そうなのだろう。自分の鞄のポケットを押さえる腕にその子のものらしい鞄が当たっているが、仕方ない。
それでもなんとか駅に到着して、流れに任せて降車する。
駅に降り立って、腕に違和感を感じた。
見れば、さっき背中を見せていた薫風の女子生徒がえらく動揺した顔で、手にした鞄を引っ張っている。
それにつられて詰襟の袖口が引っ張られるのを感じる。
視線を動かしてその子の鞄の何かと袖口のボタンが絡まっているのを確認する。
……。
どうやったら、こんなことが起こるんだろう。
しばらく自分の袖口を見つめてしまった。
いくら混みあっている電車でもみくちゃにされたとはいえ、ボタンと鞄についた飾りの紐が絡みつくなんてこと、あるだろうか。
しかしあり得ないだろう事象が目の前で現実に起こっていることに、「不思議」とはこういうことをいうのか、と思った。
不思議といえば、薫風の女子生徒の挙動不審とも言えそうなくらいの焦りようもそうだ。
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