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こちらと目を合せないところとか、なんとなく小動物を思わせる態度とか。
……そんなにびくびくしなくてもいいのに。
しばらく互いの身に起こった状況を把握するために、引っ張りあいをする。
ぼすん。
ふいに勢い余った女子がこちらに飛び込んできた。
体当たりのような形でぶつかってきた髪から、ふわりと香るものがあった。
「すみません!」
何の香りかを探るより先に、向こうが即座に身を引き離して後ずさった。
けれど今度は後ろに引き過ぎたらしく、詰襟の袖口が引っ張られてしまう。
それを見た女子はまた慌てた声で「すみません」と謝りながら、少しだけ距離を縮めた。
……そんなに焦らなくてもいいのに。
緩急バランスの悪いぎこちない動きは、まるでぜんまい人形みたいだ。
たぶん、軽いパニックになってるのだろう、こちらはこの状況をどう打破するかの対策を考えているが、向こうはそこにまで意識が到達していなさそうだ。
今は登校前の時間で余裕がない。
とりあえず相手を落ち着かせようと、「深呼吸」と声をかけた。
「へ?」
相手は間抜けな声をあげながらも、こちらの声に従って大真面目に深呼吸をしている。
……。
半ばからかいも含めて言ってみた言葉に、これほど素直に反応されるとは思わなくて、ふ、と頬が緩むのを感じた。
なんだ、これ……。
自分の顔に起こった現象がよくわからない。
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